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1994年度 松下政経塾報1994年度 松下政経塾報

国は個人を救えないのか!
1995年3月

大規模災害対策基金を

村井嘉浩/松下政経塾第13期生
 兵庫県南部地震によって5000人以上の尊い命が失われてしまった。改めて日本社会における危機管理意識のなさがクローズアップされている。私は日本の将来のために「国家レベルの大規模災害対策基金の設立」を提案したい。

★★災害に対する日本の法律の考え方

 「自然災害による個人財産の損失については、国(地方自治体)は責任を負わない」
 これが現行法のスタンスである。雲仙普賢岳の噴火では、噴火による直接的な被害を受けていないのに餓死していく家畜を前に拱手(こうしゅ)傍観せざるを得なかったという農民がいた。警戒区域と指定された地域には立ち入り禁止であるため家畜にエサが与えられないのだった。それでも国から十分な補償は得られない。
 島原市の霊丘公園内仮設住宅では、4年以上経った今でも1つの家に2家族(他人同士)が同居している。インタビューに応じてくれたおばあさんは、ご主人と息子夫婦、孫3人の計7人家族で2部屋を使用。すでに仮設住宅の生活も4年目に入り、農地を借りて生活をしのいでいる。国や県、市から各種の援助は受けているがとても安定した夢のある生活を営んでいるようには見えなかった。

★★災害対策基金条例

 災害は予期せずに起こる。静岡県では東海大地震に備え、大規模な基金条例を作りお金を貯めている。地方自治法第241条によるもので、分かりやすく条例で定める基金というものを説明すると、基本的には次の通り。

  1. 各基金について、その都度条例を定める
  2. 条例で定めた特定目的にしか使用(処分)できない
  3. 基金の運用から生ずる収益(一般的には利息)は使用する必要がなければ積み立てることができる。

 「静岡県大規模地震災害対策基金条例」は昭和59年にできた。基金の積立目標額は700億円だが平成4年度まで16億円しか積み立てられていない。これは基金の特性上、いったん地震対策基金にお金を入れると特定目的の条件(大地震が起こり、復興費が必要になる)を満たさない限り自由にお金が使えないためで、静岡県ではこの問題をクリアするため、本条例制定と同時に、その他の基金条例(財政調整基金・県庁舎建設条例など4つの基金条例)を改正し、大規模地震が起こった時にはそれらの基金の取り崩しもできることにしている。そうすることによって地震発生時には1200億円(5つの基金合計)のお金を議会の承認を経ず、知事の決断でタイミングよく使用でき、何も起こらなければ各基金それぞれの特定目的に応じてお金を蓄え、使用できる工夫をしている。
 静岡県のこうした大規模な基金設立の取り組みは、他の自治体にはないもので画期的である。
 しかし残念なことに本基金は災害の応急対処・復旧その他の災害対策に使用を限定しており、大きな被害を受けた被災者個人の財産にまで救済の手を伸ばすことはできない。

★★(財)雲仙岳災害対策基金

 基金と呼ばれるものは、以上のように地方自治法で定められるもののほかに民法によって作られるものもある。民法第34条では、教育・文化・生活・環境などの分野で、不特定多数の人々の利益を図るために公益法人(財団や社団)を作ることを認めている。目指すところは、営利目的の企業と、国民共通の利益を追求する行政活動それぞれの足らざるところを補うこと、換言すれば「すきま産業」として社会に貢献することにある。

 長崎県では、この制度に着目し、行政では実現できない被災者個人の財産への助成を可能にした。「(財)雲仙岳災害対策基金」で、その仕組みは以下の通り。
 【1】元金の集め方=合計630億円(イ)5年後に全額返す予定で国から借り入れた540億円。ただし借入に伴う利子の95%を地方交付税で補填(ほてん)(ロ)県の基本財産30億円(ハ)全国から長崎県に寄せられた義援金(合計168億円)のうち60億円。
 【2】運用資金=被災者に対する助成金(イ)元金から得られる金利(ロ)義援金(60億円)の取り崩し【役員】理事長は長崎県知事。理事は県内在住の有識者・被災自治体関係者などで構成。

 このような形を利用して、個人の財産形成にお金を出したり、一般的な経済活動に無利子の資金貸し付けを行っている。仮設住宅に住む人々は一様にこの程度の助成では何もできないと口をそろえるが、災害が終息する以前(法的根拠となる被害額の算定ができない状態)に助成の手段を講じたことは参考とすべきだろう。

★★「大規模災害対策基金」の概要はこれだ!

 東海銀行が1988年に関東大震災級の地震が南関東一帯を襲った場合の被害額を算出した。それによると住宅などの被害額は約80兆円(現在の国家予算規模)にのぼる。
 日本の名目国民総生産の約4分の1が消滅し、世界全体の実質国民総生産を最大2・6%押し下げるという計算だ。仮に国が2兆円(現在の国家予算の約2・5%)を災害対策基金として毎年積み立てれば50年後には元金だけで100兆円のお金を蓄えておくことができる。国民を不幸のどん底におとしいれる大地震が起こった時に、会社や個人の財産への助成にそのお金を使えば、国内だけでなく世界経済に及ぼす影響も少なくてすむであろう。

 松下幸之助塾主は生前、無税国家論というものを提唱された。これは、「毎年の国家予算の1割を余剰金として年々積み立てていくと、100年後にはその金利だけで国が運営できるのではないか」というものである。(もちろん、貧富の差が大きくなりすぎないように富裕税を作ったり、突発的に支出が必要になった時には低金利の特別国債を発行するという条件付き)。税金の問題と災害対策の問題では畑違いの感じもするが、国の予算を一定額蓄えておくという点では共通している。仮にこの基金制度がうまく軌道にのれば、同様に医療福祉基金のようなものを作り、金利だけで高齢者医療費をまかなえるようになるかも知れない。雲仙普賢岳被災者のために、義援金と称して227億円(平成5年末現在)も財布から出した国民である。きっと理解してくれるだろう。
 「豊かさ」という言葉は、現代から未来の日本を語るキーワードである。住居空間を広くしたり、長期休暇を取ることも豊かさの1つである。しかし、思いがけない危機が訪れたとき(災害だけでなく、家族の死や病気など)でも安定・安心した生活を営むことができることが、本当の豊かな社会なのではないだろうか。
 「備えあれば憂いなし」。長期的なビジョンを持った災害対策、危機管理の必要性を政府にも国民にも求めたい。

1995年3月執筆
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