年のはじめにあたり
塾長 佐野尚見
日本が直面している国家的課題の解決に時間的余裕はない。
・巨大地震や原発事故からの復旧と復興。
・経済成長、とりわけデフレからの脱却。
・財政改革、1000兆円近い国の財政赤字。
・社会保障、崩壊しつつある仕組みの立て直し。
・安全保障、東アジア情勢への対応強化。
・食糧、医療、エネルギー、教育、TPP。
・人口減少、地球温暖化対策
等々枚挙にいと間がなく、いずれも焦眉の急である。しかもこれらの課題は、各々が複雑に絡み合い、影響し合っている為、極めて変数の多い難解な方程式を解いていかねばならない。
危惧すべきは、これらの国家的課題から派生する様々な事象が、時に事件や事故となり「日常化」「慢性化」することである。
人に対する「思いやり」や「配慮」が希薄になる事である。政治に対する「アキラメ」や「シラケ」ムードが蔓延する事である。
歴史を振り返ると、この様な時代、往々にして「極端な政治の舵取り」が行われ、結果、国が大混乱したり、最悪の場合滅亡の途に向かう事実がある。
何としても松下幸之助塾主が願ってやまなかった「平和と繁栄による人々の幸せの実現」に努力しなくてはならない。
今ほど政治が大切な時はない。海外の私の友人が言った。「日本の総理大臣は香港の回転ドアみたいですね」と。2年前、彼はこうも言った。「私達の尊敬する国日本が、どちらへ向かっているのかわかりません」と。
彼は今シンガポールに住んでいる。香港の回転ドアは恐ろしく早く回る。日本のそれの2倍は速い。笑えない冗談である。日本人にとっても極めて残念な指摘である。
日本では、ここ5〜6年、内閣総理大臣が誕生した途端、様々な理由をつけて、ひき落としが始まる。内閣総理大臣は、日本の最高経営者である。1年や2年で国の経営が出来る筈がない。民間企業の経営者でもCEOを4〜5年続けなくてはしっかりとした結果を出す事は出来ない。
破壊と創造には、少なくともこのくらいの時間が必要だ。
戦後67年、世界が激変し中国やインドが台頭する中で、日本は旧態依然の法律や仕組み、多くの規制にしばられ相対的な国力が落ち続けている。これらにメスを入れつつ、先の今目的課題を解決するには、少なくとも4〜5年は必要である。
今は、平時ではない。戦火こそ交えていないが、取り巻く四囲の情況と、日本の国情を考えると今はまさに戦時である。とにかく時間はない。
内閣総理大臣には4〜5年は頑張ってもらいたい。
私は当初、与野党の“ネジレ”大いに結構と思っていた。与党と野党が国民の前で、大いに議論を交わし、調整をしつつ決める。決まれば、協力して挙げて国難に対処する。
官僚も又、自らの豊富な知識を知恵に変えて、政治の筋書きに精度と味を加えていく。論点が明確になり、国会は最高の審議の場となる。本来の議会制民主主義を取り戻す事になる筈であった。“ネジレ”そのものが、改革のエネルギーになる筈であった。
然るに昨今、自ら所属している党の中でさえ、思いが異なると反発し、離党や新党騒ぎが起こる。そこに大義はなく、矮小な自己保全が見え隠れする。これでは国民の支持は得られない。
マニュフェストを尊守するのは当然である。少なくとも民主党は、先の衆院選はマニュフェストを高くかかげ、揺れ動いていた民意を味方につけた。
しかし、残念ながら誰が考えてもマニュフェスト通りいかないテーマがある。国民に対するコミット違反かもしれないが、明々白々達成不可能なテーマについては、もはやこれにこだわる必要はないと思う。素直にしっかりと国民に対し、説明をすればよい。これにこだわり、政治の停滞をこれ以上招いてはならない。過去数年、やろうとして実行出来なかったテーマも数多くあるし、国民は解っている。
政治は分断されても、外交や国民生活は継続しているのだから。それ程までに今は時間がないのである。
喜ばしいニュースがある。これから各地で成人式が行われるが、新成人の80%近くが「自分達の世代で日本を変えていきたい」と考えているという。72%が政治に、76%が経済に関心があるという。反面、「リーダーシップを取る人が、日本の将来ビジョンを示していない」という意見もある。(インターネット調査会社マクロミル調査)
いずれにしても、若い世代が自分達の国を考え出した証左である。
松下政経塾は、今年で33年目を迎える。ここまでこれたのも、多くの皆様のご支援とご協力の賜物である。また卒塾した塾員の頑張りのおかげである。心から感謝を申し上げたい。
この32年間で、250名近い塾生が巣立っていった。今社会の様々な分野で活動している。分野は多岐に亘るが、塾生時代に唱和した「塾是」「塾訓」「五誓」は、形を変えながらも心の中に、行動の中に生きている。
昨年から4年制を導入した。より松下幸之助塾主の研究、研修を深めるためである。今年は6名の塾生が入塾してくる。新人を迎え入れるということは限りなく嬉しく、限りない責任を感ずるものである。
決して忘れてはならない事がある。今回の震災で被災された皆様への「こころ配り」である。「心配」ではない。「こころ配り」である。
私達は、被災された皆様から、日本人として忘れかけていた大切なことを教えられた。水や食料、衣類、燃料の不足等、生きる為の条件が整っていなかった時でも、整然とした行動、家族や地域との結びつきの大切さ、分ち合う心等である。自立といった言葉も数多く聞かれる様になった。
義援とか支援の気持ちを持ちつつ、更に「こころ配り」を塾活動、研修の原点に置きたい。今年の新入塾生も又、先輩同様、被災地へのボランティアから塾での研修がスタートする事になる。
素晴らしい年の幕明けにしたいものである。