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1997年度 月例レポート1997年度 月例レポート

1997年7月

アメリカ地方議会と住民の主権者意識

大場秀樹/松下政経塾第16期生
 地方政府が独自の政策を行い、住民の自治意識もわが国とくらべ高いとされる米国で 、地方自治の実態と活性化政策の研究のため、ミシガン州アナーバ市に住んでいる。人 口は約20万人、自動車で有名なデトロイト近郊に位置する。

自宅でテレビを見ていると不思議な番組を目にした。よくみるとCity Counc il Meetingとある。なんと市議会の生中継をやっているのだ。そして実際に 傍聴すると、そのしくみと雰囲気にさらに驚くことになった。

「近年、マンションの建設が急増し、昔の建造物とのバランスが悪くなってきた。規制 ゾーンを設ける景観条例を作るべきだ」NPO代表。「この町の家賃が高いのは住宅供 給があまりに少ないからだ」地元不動産業者の反論。「ホームレス寮建設はいつ決まっ たのか。 説明会を開いたか」ある住民。「広報で通告したはずだ」市の反論。

こうした市政への不満や要求を、住民は電話一本の予約さえすれば、本会議において誰 でも自由に発言ができる。当然話題も環境、建設、教育、福祉など多岐にわたり、この 中から立法化の必要があるものは議員のみの委員会で審議され、さらに住民、そして専 門家も呼んでの公聴会も開かれる。すべてが公開されており、住民が参加しやすいよう 夜7時 30分より開催される。私の閑古鳥という予想に反し、この日も約100人が傍聴席を埋 めた。質問者は老若男女を問わず18人、各々制限時間いっぱい発言し、熱気に溢れるそ の 審議は夜11時まで及んだ。

傍聴して感じたことは、政策の是非に加えて、情報公開と住民の知る権利についての質 問や意見が多かったことである。一例として、ホームレス寮建設に関してだが、どうし てここかという場所選定の決定過程が不透明性であったこと、また、住民への説明会の 事前告知が小さく、かつ遅すぎたため、殆どの住民がその開催すら知らなかったことに 対し、厳しい意見や質問が相次いだ。また、質問者をよくみると、フリーに加え地元N PO代表が多く登壇し、このまちの地方自治にNPOが大きな役割を果たしていること を痛感した。

議員は男性6人、女性5人のたった11人、日本でこの人口規模なら35人以上はいるだ ろう。議会事務局Jan Chapin氏によれば、選挙は2年ごとに市内18歳以上の 有権者の投票で行われる。議会での党派会派は存在せず、与党も野党もない。もちろん 国会議員との系列関係もない。報酬は毎月730ドル〔約8万4000円〕。商店主、 企業経営者、銀行員、学者など多彩な顔ぶれで、平均年齢は38歳と極めて若い。また 、議会 の様子は1957年からラジオ放送、81年からはテレビ生中継が行われ、さらに毎月ごと 議会レポートを作成し、全住民に配布している。

今まで、議会での住民の声が実際に施策として実行されたことは数多い。今年度は、橋 の建設から警察署の増設〔治安に関して、米国では最重要課題である。しかも市は独自 の警察を持ち、市の予算の多くをそれに割いている。ここでは市役所内にあった警察署 を別に新設強化した〕だった。そして最後に氏は、議会での住民の自由な発言も、この 市だけに限らず、連邦法できちんと義務づけられている。われわれがこうした仕組みを 持つことは民主主義に当然必要であり、全米各自治体地で行われていると説明してくれ た。

 他方わが国ではどうか。日経新聞の調査では大半の都道府県議会や市町村議会は、首 長与党が90%を超す絶対的多数を占めるという。これでは単なる執行部の「追認機関 」、 あるいは「翼賛議会」ではないだろうか。一般的に傍聴者も少なく、住民の発言機会も システムとして当然ない。

こうした日米両国の自治意識の違いは、歴史的経緯と国家構造の違いから、現在では当 然と言える。米国の成立は最初の13州以後、各州単位で徐々に連邦に加盟していく過 程を辿ったため、現在でも地方政府の権限は巨大である。消費税率や交通ルールまでも が州ごとに異なる。一方、わが国は明治維新、そして戦後と中央集権で国造りを行って きた。税金の大半は国税であり、県や市町村はその歳入の多くを国からの交付金や補助 金で賄うという税財政制度のために、地域での住民の税負担と、その使途の感覚が一致 せず、当然住民の地方自治への関心が薄くなる。日本国民という自覚〔これも最近怪し くなっているが〕はあっても、○○市民・県民という帰属意識は大抵低い。

今後地方分権を一層進めるべきと考えるが、これには依然として反対論も根強い。分権 が進めば、従来にない規模の予算、権限が地方政府に任される、はたして大丈夫なのか と。

しかし、地域のことを国が決め、素封家や利権グループが動かす時代はもう終わった。
必要なことは、地方議会が、立法機関、チェック機関として立派に機能すること。米国 のある地方議会で見た、住民参加システムと行政の透明性。そして、何より住民の主権 者としての自覚ではないだろうか。

1997年7月執筆
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