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1995年度 地域から日本を変える1995年度 地域から日本を変える

1995年5月

マルチメディアが変える暮らしと政治

桑畠健也/松下政経塾第9期生
 松下政経塾は、米国のマルチメディアを視察するツアーを開催した。

 期間は、平成7年1月25日から2月3日までの10日間。参加したのは、塾生、塾員、「地域から日本を変える運動」会員の17人。参加者のほとんどは、マルチメディアが普及することで、社会や暮らしがどう変化していくかに関心を持つ人たちであった。

 参加者のひとり、石田誠さん(34)は神奈川県川崎市を中心に中古車販売の会社を経営している。石田さんは参加した動機について「マルチメディアが普及すると、私のような仕事の形態がどう変化していくのか知りたくて参加しました」という。

 また、岡山県でデザイン会社を経営する井上勲さん(46)も「マルチメディアやインタ−ネットが普及してくれば、私が関わっているデザイン業界も大きく変化するだろう。その変化を実感するために参加しました」と語っていた。

 米国は日本と違って、東京に何でも集中しているのではなく、各都市がそれぞれの機能を分担している。どこか1都市を訪問すれば、マルチメディアについてすべてわかるという具合にはいかない。

 結局、アメリカ大陸を横断することになった。

■放送の中心地ニューヨーク

 マルチメディアの特徴のひとつとして、放送と情報通信(電話)の融合という現象が挙げられる。放送は「1対多」対応のメディアで、通信は「多対多」対応のメディアだ。映像や文字が自在に個々人の間で送受信できることもマルチメディアの特徴である。

ごく簡単に言うなら、放送と通信が融合すれば、テレビ電話が実現するということだ。しかも、すべての人がテレビ番組の受信者であり、発信者であることになる。

 最初の訪問地は放送の中心地ニューヨーク。ここには米国3大テレビネットワークが集中している。ニューヨーク訪問は1月25日。翌26日、JETROニューヨークの前川徹(まえがわとおる)さん、MKアソシエーツの小林知代(ちよ)さんの講義を聴いた。

 この講義の合間に、全米第2位のケ−ブルテレビ会社、タイムワ−ナ−社がニュ−ヨ−ク市クイ−ンズ区に開設しているニア・ビデオ・オン・デマンドを見学した。これは、ケ−ブルテレビの映画プログラムを好きな時間に最初から見ることのできるシステムである。一般のケ−ブルテレビの映画放送は、当然ながら、放送開始時刻まで待たなければならないが、このシステムだと、15分〜30分の待ち時間で映画を最初から見ることができるのだ。

■情報の自由化を促すインターネット

 前川さんは、「日本と米国ではマルチメディアについての捉え方が違う。日本では将来の夢であり、米国では現在のビジネスである」という。

 米国では、(1)CDーROM付きマルチメディアパソコンが普及(94年度1千万台)、(2)CDーROMのタイトル数も増加(94年4〜6月には397・5万枚と前年同期の約3・6倍)、(3)インターネットが商用に本格的に活用、といった現実的な動きが見られる。

 そして前川さんは「やはり、いまの米国での最大の動きはインターネットです」と指摘した。

 インターネットとは、機能的にはパソコンネットに近い。パソコンネットに音声、画像、映像が自由にやりとりできる機能が加わったものだ。

 ただし、ネットの構築理念が全く違う。パソコンネットは「王様と家来」のシステム。中央に大きなコンピュータがあって、ここをすべての情報は経由する。一方、インターネットは「自由と平等」のシステム。お互いが網の目のようにつながって、情報をやりとりする。

 情報のやりとりのルールさえ守れば、つながっているどんな相手とも情報交換できる。平等につながっているため、相手が大型コンピュータでも、パソコンでも対等なやりとりが可能なのだ。自らインターネットの伝道師を名乗る前川さんは、インターネットの未来を熱っぽく伝道してくれた。

 また、小林さんからは、政治的、政策的な動きから見た米国でのマルチメディアの特徴について聞いた。

 参加者は、2015年までに全米の家庭、オフィス、工場、図書館、データベース、研究所などをすべて結ぶという「情報スーパーハイウェイ構想」に興味を示す人が多かった。さらに、この構想を発展させた「NII構想」(NATIONAL INFORMATION INFRASTRUCTURE=全米情報インフラストラクチャ)についても説明を受けた。

 「米国のNIIは、技術的には中立。日本ではNIIは光ファイバー中心でインフラ整備を図るというように伝わっていますが、米国は光ファイバーでも、マイクロウエーブでも、何でも構築できればいいということです」と語った。

 日本で伝えられる情報と米国の実態の違いを改めて認識した。

■コンピュータ産業を発展させたボストン

 米国では、コンピュータの普及とそのネットワーク化が進んでいる。

 特に、パソコンの家庭への普及は、マルチメディアの普及を支える前提条件となっている。このため、パソコンの普及率の大きな落差が、マルチメディアの普及において、日本が米国に出遅れた根拠とされてきた(94年度現在・米国42%、日本12%)。

 そもそも米国の大型コンピュータ産業は東部を中心に発展してきた。私たちは、M.I.T.(マサチューセッツ工科大学)を中心に、コンピュータ産業の発展をリードしてきたマサチューセッツ州ボストンを訪れた。

 1月27日、コンピュータの歴史や技術的紹介を行っている、コンピュータミュージアムを見学。28日は、ハーバード大学ケネディスクール(行政大学院)のトーマス・M・フレッチャーさんから、行政におけるマルチメディアの活用の実例や、スリーマイル島の原子力発電所の事故をモデルにした、意思決定の演習を行うシミュレーションシステムについて紹介してもらった。

■CATVの中心地デンバー

 29日には、コロラド・スプリングスへ飛んだ。ここを拠点に、コンピュータに縁のないブルーカラー層にパソコン通信を通じて情報化社会へ参加する機会をつくり出しているデーブ・ヒュージさんを訪問した。

 米国と日本の格差のもうひとつの大きな要因は、CATVの加入世帯数の違いである(米国5570万世帯、日本160万世帯)。

 3番目の訪問地は全米のCATVの中心地となりつつあるコロラド州デンバー。ここは地理的にも米国の中間地点であるため、衛星の中継地として最適だという。全米最大のCATV会社であるTCI社が本社を構え、CATV研究所もここを本拠としている。

 30日には、このTCI社を訪問。同社の今後の経営戦略について、マルチメディアシステムで説明を受けた。

 同日、米国西部の地域開発を調査研究するシンクタンク、センター・フォー・ニューウエストを訪問。同センターのケント・ブリックス氏から同センターが関与している、NII構想に連動した民間プログラムについて説明を受けた。

■パソコンの発祥地西海岸

 西海岸は、パーソナルコンピュータや半導体の開発の発祥地であり、コンピュータ関連ベンチャー企業が集中している。たとえば、MSーDOSを開発したマイクロソフトやアップル社、CPUのインテルなどが西海岸にはある。

 1月31日は、サンフランシスコ市内を中心に見学。午前は、子供向けの科学実験を実演する博物館、エクスプロラトリアムのマルチメディア特別展示を体験。午後は、サンフランスコ州立大学が運営する社会人向けのマルチメディア学習センターとそのプログラムを体験。その後、3班に分かれて一般家庭を訪問し、家庭内でどれだけマルチメディアが普及しているかをヒアリングした。

 翌日、サンフランシスコから一路南へ向かい、レッドウッド市の3DO社を訪問。3DO社は、子供向けゲーム機の規格を開発、保有している会社。実際にゲーム機を製造するのは、松下電器産業などの提携会社である。

■情報化社会に乗り遅れないために

 次にイースト・パロアルト市(人口2万人)を訪ねた。

 隣のパロアルト市は、スタンフォード大学がある閑静な学園都市だ。このパロアルト市に併合を拒まれ、様々な議論の末、パロアルト市外、東地区の住民が自治を決意して生まれた市である。住民のほとんどが黒人とスペイン系で低所得階層の人々に属している。

 この地域の子供たちに、来たるべき情報化社会に向けて、マルチメディアリテラシー(マルチメディアを使いこなせる能力)を身につけさせるための団体「プラグド・イン」を運営するのが、バート・デックレムさん(27)だ。スタンフォード大学在学中の92年から活動を始め、卒業後もこの活動に従事している。

 「プラグド・イン」とは、この地域のようにインターネットにもCATVにも縁のない所からインターネットへプラグド・イン、つまりつながるという意味で、子供たちと地域のコミュニティーを少しでもマルチメディアの流れから取り残さないようにしていきたいという思いが込められている。

 運営基金は、財団、企業、個人などからの寄付で賄われており、年間予算は17万ドル。パソコンもすべて企業からの寄付である。放課後が主な活動時間となっていて、小学生から高校生まで平均130人の子供たちが出入りする。

 ここでは、子供たちのためにマッキントッシュパソコンが20台ほど用意されていて、コンピュータを使った共同作業をすることがプログラムの中心。コンピュータの操作に習熟することと共同作業を重視している。

 「コンピュータを理解するだけでは足りません。それ以上に重要なことは、人と人とのコミュニケーションを図る能力。また、さらに大切になってくるのは、プロセスを管理する能力、しっかりと組織化して、段取りをつけて実施していく能力です」とデックレムさん。

 プラグド・インでは、インターネット上に自分たちのホーム・ページ(組織の概要を紹介するページ)を開設しており、ここには、それぞれの子供たちのコーナーが設けられている。

■参加者の情報参加

 帰国後、参加者の中には、パソコンを購入したり、インターネットに加入したりするなど具体的な行動に移る人も出てきた。

 参加者のそれぞれが、「情報化社会」に何らかの形で「プラグド・イン」し始めたことが、ツアーの最大の成果であったと言えよう。

1995年5月執筆
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