私たちは、中央集権の「制度疲労」を乗り越えるために改革に取り組んできた各国の実例を検討した。どのようなプロセスで中央集権の弊害を乗り越えていったか。その中から特に日本にとって示唆的なふたつの例を紹介する。福祉国家として名高いスウェ−デンとナポレオン以来200年間、筋金入りの中央集権国家であったフランスである。
■びしっと縦割りの日本
日本では、地方自治が憲法第8章で法的には保証されている。また、自治体の首長(図では各団体を表す□の上の丸で表示)は住民による直接選挙で選ばれる。スウェ−デンに外見上は極めて近い。 ただし注意すべきことは、日本の場合、国からの団体委任であり機関委任であるということだ。団体委任とは国の仕事を団体(都道府県や市町村)に肩代わりさせること。さらに機関委任は、団体そのものが国の出先機関の一部と見なされる。住民投票で選んだ首長といえども、委任された仕事については国の大臣の部下という位置づけなのだ。
身近な役場の組織がそのまま国の省庁の組織に対応している。建設課や都市計画課は建設省、農林課は農林省。保健課や福祉課は厚生省に対応している。重要な決定事項はほとんどが国で意思決定され、地方に降りてくる。
地方「自治」体とは名ばかりで、国の出先機関にある程度の自治があるのが実態、とは少し言いすぎだろうか。図で見てもわかるとおり、日本の地方自治は実情は中央から末端まで縦割りにされているのだ。
■住み分け型、スウェーデン
スウェ−デンの図で国から県や市町村向けの矢印がないのは、機関委任事務が全くないからだ。「公的決定は、その決定内容に影響を受ける可能性が大きい市民の生活にできるだけ近い政府で行われるべきである」というのがスウェ−デンの地方分権の理念。国や県、市町村の間で業務について完全に住み分けができている。
特徴的なのは、県は健康医療関連業務に集中していること。日本の県のように何でも取り扱うわけではない。さらに最近では、市の財政能力や行政能力がレベルアップしているため、「県廃止論」すら出てきているという。
実は、日本とスウェ−デンとは、人口当たり市町村の数でもそれほど変わらない。1市町村当たりの人口は、日本3.82万人、スウェ−デン3.02万人となっている(表参照)。
1人当たりGNPは日本のほうが高く、教育水準も同程度。スウェーデンに比べて遜色ないだけの自治能力が、日本の市町村にもあるはずである。そうでないならば制度そのものに問題があるか、市町村間に著しい格差があるせいだ。
スウェーデンが現在の市町村の規模になってきたのは、奇しくも日本で市町村合併が盛んだった1950年代。日本にも決してできない改革ではない。
■フランスは横滑り型
フランスでの国と自治体の関係は横滑り型。82年、ミッテラン政権の誕生後にこのようなシステムが生まれた。それ以前、フランスの県知事は戦前の日本と同じように国からの任命だった。国は、県や市町村に対して後見監督制度を敷いていたのである。
後見(tutelle)とはもともと未成年者に用いられる民法の言葉で、自治体が未成年の子供で、国は親として教導していることを意味した。自治体事務はほぼ100%機関委任事務だった。それが、地方分権を唱える社会党政権の誕生により、次のような180度の転換を遂げる。
(1)事前の後見監督(何かする前にお伺いを立てること)が廃止され、事後の監督のみとなった。
(2)県知事は国の任命から議会による互選に変わり、県会議長が県知事となった。(知事制度は国の出先機関をまとめる、執行権のない地方長官と変わった)
(3)これまで存在はしていたがほとんど権限を持たなかった州が、地方自治体として位置づけられ、住民公選の州議会が誕生し議長が州の執行権者となった。
(4)地方自治体が、これまで許されていなかった地域経済への介入を認められ、具体的な財政政策を執ることができるようになった。
同時に財源補償や国の出先機関の移管も行われた。文字通りドラスティックな転換だ。
■地方分権、ほんとにやるの?
国情の異なるスウェ−デン、フランスの例をそのまま日本に当てはめることはできないが、両国の経験から得られるのは、地方分権を進めるプロセスにおいて次に挙げる要素が必要だということである。
(1)基礎自治体と言われる市町村の行政能力を高めること。いきなり道州制から始めるのではなく、市民に最も近い市町村が底力をつけること。
(2)そのためには、自治体間の格差(財政や人的資源)を是正すること。場合によっては町村合併も必要だが、何より首都への一極集中を是正すること。一番の方法は遷都だと思われる。
(3)国、県、市町村の役割分担をはっきりさせ、財政や組織の一部を県や市町村に移管させること。
誌面の都合で十分に論ずることはできないが、最も優先すべきは、一にも二にも基礎自治体の充実とそのための大胆な権限、財源の委譲である。
いずれにしても政治による積極的改革が望ましい、と私たちは考えている。7月の総選挙でも新党・既存政党はこぞって「地方分権」を唱った。国民の判断は下された。どのように具体的に実現していくか、お手並み拝見といきたいものだ。



















