この断崖上を縫うようにして、直径1センチメートルほどの塩化ビニールのパイプが松の木に沿って縦横に走りまわっています。このパイプは城ヶ崎海岸の端から端まで張りめぐらされています。伊東市では、5月下旬から6月にかけて、早朝、観光客のいない時間帯に、このパイプにスプリンクラーをつなげて薬剤を撒きます。松枯れ病を起す虫、マツノマダラカミキリを防ぐためです。
城ヶ崎のやり方は徹底しており、城ヶ崎の松1本1本について木籍台帳があり、ある一定の大きさ以上のものはその位置や大きさが全て記録されています。
また、マツノマダラカミキリの行動半径が1キロメートルであることから、城ヶ崎の松林地帯から半径1キロメートルの松を取り除くよう指導しているそうです。
松枯れの被害はかなり以前からあり、昭和54年にピークを迎え、北海道と青森を除くほぼ全国の243万立方メートル(14万戸の家の木材量相当)の松に被害を与えました。対応を迫られた国は、昭和52年に、農薬の空中散布を認める5カ年の時限法の「松くい虫被害対策特別措置法」を制定。この3月、3回目の更新をおこないました。
松枯れの原因はまだよくわからないところがあり、酸性雨や他の原因があるともいわれます。しかし、体長1ミリメートルにも満たないマツノザイセンチュウが原因というのが通説です。このマツノザイセンチュウを運ぶのが、マツノマダラカミキリ。これが松の新芽を食べるときに、ザイセンチュウが松に入るのです。カミキリが活発に動きまわる5ー7月に、ヘリコプターから農薬の空中散布をするのが最も簡便な松枯れ対策といわれています。
しかし、全国各地で、「頭が痛くなった」「吐き気がする」「カイコが死んだ」などという被害が続出。農薬散布に対する反対運動もおきました。そのため、松の樹皮下に予防注射のように薬剤を打ち込む方法も開発されました。ただこれだと松1本あたり1万5千円もかかります。そのため、城ケ崎でも全ての松に使えず、松林の周辺部分を選んでこの薬剤を使っています。
「空中散布の結果、1昨年には、松枯れは100万立方メートルにまで半減したし、それ以外の方法ではコストが高すぎます」(社団法人日本の松の緑を守る会事務局の話)。城ケ崎のようなきめの細かいやりかたはとても全国的にはできないもののようです。
自然体系に相当な費用をかけても、なかなか自然破壊をくいとめることはできません。人間の活動がこれだけ大きくなると、自然体系の微妙なバランスを保つことは、大変難しくなってきます。「自然」が「自然」であるために、大変な手間と費用ががかかるようになります。当り前のようにあった北斎や広重の絵にある松の木も、もはや「自然」ではなくなりつつあるのです。



















